「ゴキブリ8:殺虫成分のいろいろ」
■有機リン剤
有機リン剤の基本的な構造は、五価のP(リン)が中心となり、酸とアルコールが結合したリン酸エステル化合物です。
この薬剤のグループは、農業用と衛生害虫用の両方にもっとも多く使用されており、ゴキブリ退治用にも十種類以上の成分があります。
そのなかで、ダイアジノン、ジクロルボス、トリクロルホン、フェンチオン、フェニトロチオン、シアホス、ピリダフェンチオン、クロルピリホスメチルなどが優れた効力をもっています。
例えば、ジクロルボスは細かい粒子にして虫に吹き付けても、噴霧された床に虫が触れても、即効的な反応を示します。
その理由はジクロルボスが揮散性に富み、皮膚、口、気門のそれぞれから同時に侵入するからです。
しかし、その反面、残効性は期待出来ません。
トリクロルホンは殺虫剤としては珍しく、原体が水に溶ける薬剤です。
また、しばらく保存した希釈液や、噴霧した床面等のトリクロルホンは、ジクロルボスに変わりながら分解して行くため、初期効果よりも日時が経過した時の方が効力が増大するという不思議な現象を起こします。
また、忌避性が少なく、接触効果よりも食毒効果に優れているといった特長も特筆に値します。
フェニトロチオン、ダイアジノン、フェンチオン、クロルピリホスメチルなどは、限定時間接触効果、すなわち噴霧した床などに短時間接触しただけで、数日後に致死させる効果に優れています。
さらに残効性の長さや基礎的な致死効力の強さ、あるいはMC剤(マイクロカプセル剤)としていち早く市場に出た経緯といい、フェニトロチオンとダイアジノンの二薬剤がゴキブリ退治用の残留噴霧剤として、現状、最も優れたものといえるのでしょう。
有機リン剤のゴキブリ用製剤は、油剤、乳剤、エアゾール剤などが一般的ですが、燻煙剤や加熱蒸散剤、さらに食毒剤にも製剤化されています。
■カーバメイト剤
カルバミン酸エステルであるカーバメイト剤は、
有機リン剤と同様、昆虫の中枢神経系にある酵素(コリンエステラーゼ)を阻害して効力を発揮します。
このグループでゴキブリに有効な薬剤はプロポクスルです。
即効的な作用を示し、直撃効果と接触効果のバランスのとれた薬剤です。
忌避性が若干認められます。
製剤は油剤とエアゾールが市販されています。
■ピレスロイド剤
シロバナムシヨケギク(除虫菊)の花に
含まれる殺虫成分ピレトリンと、この化学構造から発展した一連の合成薬剤を総合してピレスロイド剤とよんでいます。
ピレスロイドは、基本的には菊酸とアルコールのエステルですが、最近開発された新成分にはこの条件からかけ離れた化学構造を示すものが多くなりました。
天然物と初期に開発されたアレスリンやフタルスリンの殺虫活性は、細かい粒子をゴキブリに直撃すると、即効的なノックダウン効果を示します。
しかし、一度ノックダウンした虫が蘇生する短所があります。
したがって、一般使用に際しては、致死効力を強化するため、共力剤を配合するのが標準的な処方となっています。
その後、レスメトリンが出現して、致死効力は改良された代わりに、速効性は減退しています。
致死効力の高い薬剤の開発はさらに進展し、フェノリトン、ペルメトリンが誕生しました。
アレスリン、フタルスリンは速いノックダウン効果を、フェノトリン、ペルメトリンは致死効力の的確さ生かした使い方をするのが、合理的です。
また、常温で揮散性が際立って高い薬剤としてエンペントリンがあります。
この薬剤は防虫剤としての効力が優れていて、ナフタリンとかパラジクロルベンゼンのように衣料用薬剤として使用されています。
ピレストロイドにみられる特異な性質として、フラッシング効果があります。
これは、ゴキブリが潜んでいるせまい場所に、有効成分の微粒子がほんのわずか漂ってくるとゴキブリはじっとしていられず、広い空間に飛び出してくるもので、追い出し効果と言います。
この現象は中毒にいたる前駆症状であると言われています。
■その他の薬剤
(1)オキサジアゾール系殺虫剤
最近認可されたオキサジアゾール系殺虫剤、メトキサジアゾンは、加熱蒸散剤の主剤として、また、ペルメトリンに配合した燻煙剤として使用されています。
特にピレスロイド剤に抵抗性をしめすゴキブリによく効くのが長所です。
(2)ホウ酸、ヒドラメチルノン
いずれも食毒剤の優れた有効成分です。
ホウ酸は、昔は人体に無害な消毒薬として、うがい薬、洗眼料、ホウ酸軟膏などに広く便利に使われましたが、皮膚から吸収されると害はあることが分かり、今では医薬品として使わなくなりました。
もっと安全でいいものが出たせいもあります。
一方、ヒドラメチルノンは、ゴキブリの摂食用薬剤としてアメリカで開発された新しい薬剤です。
これは、「コンバット」という商品名で売られている大正製薬の殺虫剤の成分です。
日本で売っている「コンバット」1個は、4500匹のゴキブリを殺す力があると言いますが、アメリカでは、ヒドラメチルノンの含有量が2%、1.65%、1.0%、0.9%というように明記してあり、0.9%はアリ用のコンバットだったりするのです。
ゴキブリが食べると細胞内のミトコンドリアに吸着し、酸素呼吸を阻害し、二昼夜から三昼夜のうちに死んでしまいます。
(3)昆虫成長制御剤(IGR剤)
昆虫の成長過程で、正常な発育を促す二つの重要なホルモンがあります。
一つが幼虫体を維持しようとする幼若ホルモンで、もう一つが変態(蛹化・羽化)にあずかる前胸線ホルモンです。
昆虫成長制御剤は、このうちの幼若ホルモンと同様の働きを昆虫に与え、蛹期に死亡させたり、羽化を失敗させて死亡に至らせるものです。
この薬剤の長所は「ホルモン様物質で、人畜毒性を持たない!」という点にあります。
欠点は、孵化直後や、若齢幼虫期に多量の有効成分に触れても、とにかく蛹までは成長してしまい、その後死亡する超遅効性であるということです。
現在の所、昆虫成長制御剤はゴキブリ用の認可を得ておりませんが、将来、認可されることが期待されています。
(参考文献:ゴキブリのはなし /安富和男編著/技報堂出版社)
(参考文献:害虫追い出し百科/西川勢津子、吉川翠 共著/近代文芸社)
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