「ゴキブリ6:殺虫剤の効き目」
ゴキブリ退治に欠くことの出来ないのは殺虫剤です。
「ハエ」の時には、あまり重要視しませんでしたが、「HACCPこわい!?」を「食品安全の為の連載」と考えれば、これはもう総合的な学問の領域です。
よって、殺虫剤そのものについても今回より、その歴史から掘り下げてみましょう。
最近読んだ食品安全の本(著者:日本人)にも書いてありましたが、日本のフードサービススタッフの一番の問題点は、(食品安全に関する)総合的な知識レベルの異常な低さなのだそうです。
何とも耳の痛い話、悔しいから今日も勉強しましょう。
■殺虫剤の歴史
殺虫剤の起源は、遠く古代ギリシアの紀元前1000年頃、
バイケイソウや硫黄が虫を殺す目的で使われたことにはじまったと言われています。
日本でも古くからハナヒリノキやアセビなどの植物成分が害虫退治に利用されていましたが、顕著な例では、江戸時代の1670年に福岡県の篤農家がイネの害虫のウンカに対して鯨油を使って効果をあげました。
ピレスロイド系殺虫剤と言えば、現在、有機リン剤とならんでハエ・カ・ゴキブリなどを駆除する殺虫剤の花形的存在ですが、もとは除虫菊の花に含まれているピレトリンという成分から出発した化学物質です。
除虫菊にまつわる伝説的な話を紹介しましょう。
今から1000年の昔、アラビアの一人の青年が、野原に咲く白い野菊の花を、思い焦がれていたお姫様に捧げました。
お姫様はしばらく部屋に飾っていましたが、枯れてきたので召し使いに捨てさせたところ、そのゴミ溜から虫がいなくなり、この野菊に霊験あらたかな不思議な力のあることがわかったのです。
このロマンチックな伝説の野菊こそ、野生のシロバナムシヨケギク(除虫菊)だったのです。
(ちなみに、この恋が成就したかどうかは記述がありません。青年はゴミ溜から虫がいなくなった手柄でお姫様とうまくいったのでしょうか?)
除虫菊は、後にヨーロッパに伝わって殺虫力が認められ、日本には明治時代の1885年に種子が渡来して栽培されるようになり、まずノミ取り粉、ついで蚊取り線香や油剤の市販がはじまりました。
第二次大戦後、10年以上に渡ってはDDTなどの塩素系殺虫剤の時代になり、ゴキブリ退治用にもこの系列のディルドリン、クロルデン、リンデン(ガンマ−BHC)が特効薬として使われました。
でも、DDTなどは分解を受け難く、長期間残留して毒性を失わない安定性が逆に災いとなり、販売禁止の措置がとられて日本など多くの国から姿を消しました。
1950年代後半から、人体に安全性の高い有機リン剤が次々に登場、普及し、現在に至っています。
さらに近年になって、除虫菊の成分ピレトリンから誘導、開発された各種の合成ピレスロイドの使用量が次第に増えてきました。
特にゴキブリ駆除に、煙のかたちでも、また、乳剤としても効力が強くて普及しているペルメトリンは、従来ピレスロイドの欠点とされた「光に弱い」「残効性がない」という短所がなく、しかも人間に対しては除虫菊のピレトリンよりも毒性が軽いという長所をもっています。
また、後述しますが、従来の殺虫剤とはまったく違うタイプの[昆虫成長制御剤]も登場しています。
■殺虫剤はなぜ効く?
殺虫剤が害虫を倒すためには、
まず虫の体内に侵入することが必要です。
侵入の経路には三つあります。
1)皮膚から
2)口から
3)気門から
の三通りで、殺虫剤の種類によっては、二つ、あるいは三つの経路を同時にとる場合もあります。
1)の経皮(皮膚から)を接触毒
2)の経口(口から)を食毒
3)の経気門(気門から)を呼吸毒
と呼び、ゴキブリ駆除に使う殺虫剤の形態(かたち)も状況に応じて何れかを選択することになります。
昆虫の体内に侵入した殺虫剤は神経などの作用点に到達して毒性をあらわします。
そのままのかたちで神経まで行くものもありますが、殺虫剤によっては、より毒性の強い化合物に変わる(活性化する)場合があります。
体内に入った殺虫剤の一部は脂肪体に蓄積されたり、解毒酵素で分解されたり、排泄されたりして、毒作用を示す以前に無効になってしまいます。
これをくぐりぬけたものが神経などに到達して作用点に働いて中毒させ、殺虫力を発現するのです。
ゴキブリに使う殺虫剤は、
ハエやカなど、他の衛生害虫に対するものと同様、主に神経毒で、神経機能を撹乱して中毒症状を起こさせて殺すわけです。
●有機リン剤の作用機構(効き方のしくみ)
有機リン剤は、神経に存在する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)を阻害し、結果、この酵素が分解しているアセチルコリン(神経刺激の伝達をつかさどる物質)が蓄積して中毒症状(異常興奮による震え、痙攣、麻痺の順に症状が進んで)を起こすことで虫を殺します。
リンを含んでいませんが、カーバメイト剤という殺虫剤のグループも作用機構は有機リン剤とよく似ています。
●ピレスロイド系殺虫剤の作用機構(効き方のしくみ)
神経軸索興奮膜を攻撃し、運動失調、痙攣、麻痺、死の順に中毒が進みます。
(参考文献:ゴキブリのはなし /安富和男編著/技報堂出版社)
(参考文献:害虫追い出し百科/西川勢津子、吉川翠 共著/近代文芸社)
YAMASA食品安全研究所
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