厚岸のカキ貝毒 汚染原因特定できず /北海道
(4/24)
◇道、毎週検査を指示−−プランクトン監視、全海域に
まひ性貝毒の検出のため、4日から出荷が停止されている釧路管内厚岸町産カキ。国の定める規制値を3週連続で下回れば出荷停止が解けるため、27日にも市場に出回る見通しだ。だが、肝心の汚染原因については、海流循環の異変説、外部からの持ち込み説など憶測が飛び交うばかりで、今なお特定されていない。道は今後の監視態勢を強化するが、北海道ブランドを象徴する厚岸産カキだけに、食に対する安全と安心をどう確保するのかが問われている。【丸山博、鈴木勝一】
「なぜ貝毒が発生したのか分からない」
道立中央水産試験場の嶋田宏・環境生物科長は、現地の海水を分析しながら首をかしげた。
貝毒の原因は「アレキサンドリウム・タマレンセ」という植物プランクトンをカキが食べたためと考えられている。しかし、4日以降は一度も検出されず、同じ海域で採られるアサリからは貝毒が出ていない。
このプランクトンは以前から厚岸湾に存在しており、その毒はカキやホタテなど二枚貝の体内に蓄積する。今回、検体50個から検出した毒量は1グラム当たり平均14・3MU(マウスユニット)で、十数個食べると致死量に達するほどの高濃度だった。道水産林務部は検出翌日の5日に海水を緊急採取して調べたが、プランクトンは見つからなかった。その後も確認されないままだ。
プランクトン増殖の適温は、海水温9〜10度とされ、水温が低い時期は海底の泥の中に休眠状態で潜んでいる。3〜4月上旬の海域の表面の水温は平年並みの0〜1度。海底近くの水温は3〜4度だったと推測される。道水産振興課は「何かの弾みでプランクトンが出現したか、泥の中にいた休眠プランクトンが海流の変化で巻き上げられ、それをカキが食べた可能性もある」とみる。
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厚岸町内では「他県の汚染カキが持ち込まれたのではないか」と指摘する声も上がっている。
厚岸の養殖カキには「シングルシード」「丸カキ」「長カキ」の3種類ある。シングルシードは厚岸の天然カキから稚貝を取って育てられ、「カキえもん」の名称で消費者の人気も高い。これに対し、丸カキは稚貝を宮城県から移入し、厚岸で3〜5年かけて育てる。長カキは、ある程度大きくなった宮城県産の若いカキを厚岸の海で更に大きく育てて水揚げする。
実は、宮城県では3月、県東部や石巻湾中央部など4海域のカキから最高で1グラム当たり34MUもの貝毒が検出された。今月12日までに出荷停止はすべて解除されたが、持ち込み説が流布する背景には、こうした事実がある。しかし、貝毒に詳しい大島泰克・東北大大学院教授(天然物有機化学)は「貝毒に汚染されたカキがあったとしても、1〜2週間あれば毒が抜ける。周辺に原因プランクトンがないと高濃度にならないのではないか」と話し、持ち込み説には懐疑的だ。
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道の基準は、各漁協に対し、貝毒検査を週1回、自主的に行うよう求めている。だが、厚岸漁協は貝毒発生の危険性が低い冬季は月に1度の頻度でしか実施しておらず、貝毒検出の前の検査は3月13日だった。今回、数キロ離れた隣の漁場を管理する昆布森漁協(釧路管内釧路町)が3月29日に実施した検査では、貝毒は検出されなかった。このため、道は「厚岸を含め、この海域は3月29日以前は安全だった」とみている。
道は今月8日、道内の各漁協に対し、基準通りに毎週の検査を行うよう指示。検査をしない場合には出荷を自粛するよう指導した。
また、プランクトン監視地域の見直しにも着手した。現在、監視しているのは、道内19海域のうち、カキの100倍の水揚げ量を誇るホタテが生産される10海域のみだったが、5月以降は全海域で行うことを決めた。
大島教授は「プランクトンは少量でも貝は毒化する。貝毒は防ぐことはできないという立場で、検査地点や検査の頻度を工夫し、毒化した二枚貝が市場に出回らないようにすることが重要だ」と提言している。
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◇地元経済に打撃−−風評、ブランドに傷
釧路管内厚岸町では、貝毒発生による出荷停止で、経済的影響が少なくない。今後、傷ついたブランドイメージを回復できるのか。関係者は不安を募らせている。【鈴木勝一】
水揚げされたばかりの地元産水産物を扱う厚岸漁協直売店。カキ出荷停止を知らせる紙が張られ、中央の水槽にはカキの代わりにツブ貝が並ぶ。
加藤大将(だいすけ)店長は「カキの売り上げは全体の20%しかないのに、(他の海産物の売り上げにも影響があり)落ち込みはそれどころではない」と表情を曇らせた。
飲食店の損害は、さらに深刻だ。厚岸産カキを看板にする道の駅「厚岸味覚ターミナル・コンキリエ」は、7日から広島産カキを出しているが、「少なくても1日に10人以上来る炭焼きコーナーに、1人しか来ない日があった」(小寺勉支配人)と嘆く。
今月は出荷停止に伴う回収・廃棄コストが約300万円。さらに、仲買、加工、運送、販売、飲食店などの損害を加えると、「町内全体の経済的損失は6000万円を超える」(町)と予測される。
◆カキえもん
厚岸の地名は、アイヌ語で「カキのあるところ」を意味する。真水と海水が混じり合う厚岸湖は、カキが育つのに最適な環境だ。
厚岸湖で養殖が始まったのは1930年。20年ほど前、稚貝を岩礁にまく「地まき式」から「垂下式」に切り替え、厚岸湖と厚岸湾の水温差を利用して産卵時期をコントロールすることで、1年中出荷できる体制を整えた。養殖場も広がり、生産量は10年前から飛躍的に増加。町内のカキ養殖業者は148軒に達し、昨年の水揚げ量は559トン、金額ベースで4億6088万円まで伸びた。
また、自前で稚貝を育てようと、99年からは厚岸湖の天然カキから種苗を採取して育てる「シングルシードカキ」の生産に乗り出した。04年秋に「カキえもん」のブランド名で本格的に売り出すと、人気が沸騰。札幌や東京のレストラン、ホテルなどに販路が拡大し、もはや一地方の名産品という域を超えた存在になっている。
同漁協養殖部会の笹原明美部会長は「東京は世界各地のカキを出すオイスターバーが増え、カキえもんが一番人気という店もある。厚岸のカキはおいしいという話が広まってきたところだったのに」と、今後の影響を心配する。
◆悪い印象
「貝毒は時間がたてば消えるが、悪い印象は消えない」。養殖業者の男性は、悲痛な思いと怒りをあらわにした。
町産業振興課の大崎広也課長は「道外ではカキ貝毒は珍しくないのに、反響が大きすぎる。厚岸カキが全国的に有名になっていた証拠だが、これからブランドイメージを回復させないと損害はさらに広がり、町の税収にも影響する」と懸念する。
町は5月中旬、「あっけし桜まつり」を開く。毎年1万人以上の観光客が訪れ、カキに舌鼓を打つ人気イベントだ。町商工会の広田明男・事務局長は「厚岸のカキは産卵前に身を太らせて栄養を蓄える5月が一番おいしくなる。桜まつりにたくさんの人が来てくれれば、イメージ回復につながる」と期待している。
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■ことば
◇MU(マウスユニット)
毒量を示す単位の一つ。1MUは体重20グラムのマウスを15分で致死させる量に相当する。人間の致死量は3000〜4000MU。国の基準によると、生産・出荷が許可されるのは二枚貝1グラム当たり4MU未満。これを超えた二枚貝が見つかった場合、その海域の当該二枚貝を販売すると食品衛生法違反となる。むき身のカキの重さは約15グラム。(毎日新聞)
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