特集WORLD・幸せの雑学:ジャガイモ 北海道産がホクホクのワケは?(9/06)
◇江戸時代、ジャカルタから長崎へ
「洗って皮付きのまま電子レンジで2分半。二つに切って好みのトッピングを。塩、バターでもいいですが、おすすめはイカの塩辛やイクラ、ウニを乗せて。チーズやからしマヨネーズ、酢味噌(みそ)をつけてもおいしい。おやつならブルーベリーなどの粒ジャムを」
北海道産の男爵薯(だんしゃくいも)が出回り始め、ジャガイモのおいしい季節。日本いも類研究会の前会長、梅村芳樹(うめむらよしき)さんが最も手軽な食べ方を教えてくれた。レンジにかける時、ラップはしないこと、100グラムほどの小ぶりなジャガイモを選ぶのがコツという。
◆アンデス山脈が原産
ジャガイモの全国生産量の約7割は北海道産。もともと南米のアンデス山脈の高地が原産で、冷涼な土地を好む。日本でも涼しい季節を追って一年中どこかで栽培されており、春に鹿児島、長崎で収穫が始まり、次第に北上。初秋に北海道に達する。「北海道産がホクホクしているのは日中と夜の温度差が大きいから。ジャガイモのデンプンは葉で作られ、夜に糖分となって茎の中を通り、地下のイモに移動。またデンプンに変わって蓄えられます。夜の温度が低いほど転流が起きやすく、おいしいイモができるというわけです」と、北海道立農業試験場で長年、品種改良に当たったジャガイモ研究家の浅間和雄(あさまかずお)さんが解説する。
ジャガイモは16世紀末、インカ帝国へ遠征したスペイン人がヨーロッパに持ち帰り、初めは花を観賞するために栽培された。しかしききんや戦争で食料不足になると、穀物に代わるデンプン食として広まり、大航海時代の船乗りたちにとっては壊血病を防ぐ貴重な野菜となった。
日本には約400年前の江戸時代初め、インドネシアのジャカルタから長崎に入ったと言われている。ジャカルタの昔の呼び名「ジャガタラ」から来た「イモ」が転じて「ジャガイモ」。身近な食物ゆえ、いろいろな呼び名がある。市場では「馬鈴薯(ばれいしょ)」と呼ばれるが、もともとは別の植物を指したらしい。中国の「松渓県志(しょうけいけんし)」という本の中で、マメ科の多年草のホドイモを馬鈴薯と呼んでおり、これを江戸の学者、小野蘭山(おのらんざん)が誤ってジャガイモのことだと解説したため、混乱を生じたと言われている。
また英語では「アイリッシュ・ポテト」や「ホワイト・ポテト」と呼び、単に「ポテト」といえばサツマイモを指すことがある。英国にはジャガイモより先にサツマイモが伝わったからという。
◆男爵の恋
日本でジャガイモが本格的に栽培されたのは明治になってから。北海道開拓が大きなきっかけになった。函館ドックの専務となった川田龍吉(かわだりょうきち)氏は上磯町に農場を開き、1908(明治41)年、イギリスから「アイリッシュ・コブラー」という品種を取り寄せ、試験栽培した。これが男爵薯。川田氏が男爵だったからで、おいしく、しかも栽培しやすかったため広まった。現在も栽培面積で約3割のシェアを占める不動の人気種だ。
川田氏は21歳の時、造船技術を学びにイギリスに留学し、ジェニー・イディーという女性と恋に落ちた。結婚を望んだが、親の反対に遭い、泣く泣く帰国。後にラブレターを調べたところ、イギリスでデートした時、一緒においしいイモを食べたことが分かった。農場跡地は現在「男爵資料館」に。木村孝二館長は「イギリスへの思いは深かったよう。もし2人が結ばれていたら、男爵薯は作られていなかったでしょう」。一方、関西で人気があるのが「メークイン」。1917年に輸入されたやはり古い品種で、こちらは粘質で舌触りがよく、煮物に適している。
実は、ジャガイモは生産量の4割がデンプン原料になる。片栗粉(かたくりこ)やラーメン、冷麺(れいめん)に使われたり、清涼飲料水の果糖の原料に。かまぼこがプリプリしているのもジャガイモデンプンのせいだそうだ。
◆大地のリンゴ
ジャガイモはフランス語で「大地のリンゴ」。ビタミンB1やC、葉酸、カリウムを多く含みながら、カロリーはご飯の半分とか。家庭では涼しく、暗い場所で保存すること。気温2度以下だと芽は出ない。光が当たると表皮が緑に変色し、えぐみが出てしまう。「蛍光灯でもだめ。これはジャガイモが茎だから。サツマイモは根なので日が当たっても大丈夫です」と浅間さんが解説する。
最も身近なジャガイモ料理はフライドポテトやポテトチップだろうか。ポテトチップが生まれたのは1853年。ジョージ・クラムというシェフがニューヨークのホテルで、「このフライドポテトは厚すぎる」という客の苦情に応え、考案したのが始まりだ。パリッとした歯応えのポテトチップは大いに受け、今もホテルの跡地に記念碑が建てられているという。
日本では1975年、カルビーがスナック菓子として発売し、一般に広まった。当時の社長が「かっぱえびせん」を米国の展示会に持って行った際、アメリカ人が盛んにポテトチップを食べているのを見て、「日本でも売れる」とひらめいたという。ジャガイモは100%国産。糖度が低く、焦げにくいトヨシロなどの品種を使っている。フライドポテトは「フレンチフライ」とも呼ばれ、米国では大粒の専用種が作られている。日本ではなかなか米国のような太いフレンチフライにお目にかかれないのは、気象条件の関係で大粒にならないためらしい。
梅村さんが提案するレシピは「ハーブポテト」。ジャガイモを電子レンジで加熱し、オリーブオイルをひいたフライパンで粉チーズと塩、コショウ、キャラウェイの種を加えて炒める。ローズマリーならイタリア風に。「ハーブを使ったイモ料理は世界中で食べられています。イモの香りが引き立ち、塩分もカロリーも抑えられます」と梅村さん。ハーブの代わりにいりゴマを加えれば和風になる。ポテトサラダならマヨネーズこってりより、あっさりと。千切りにしてサッと湯がき、よく水気を切って、食べる直前に塩やドレッシング、または酢味噌で。こちらはメークインやさやかなどの品種が向く。【五十嵐英美】毎日新聞
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