暮らしWORLD:「生活環境病」その実態と対策−−周東寛医師に聞く(8/05)
◇ダイオキシン・水銀・農薬・食品添加物…環境破壊と汚染がもたらした現代病
「生活環境病」という言葉がある。主に不摂生から発症したり進行する「生活習慣病」とは違い、どんなに生活を改め、健康に気遣っても防げない病や症状を指すらしい。その実態を、長年研究している医師、周東寛(しゅうとう・ひろし)さん(52)に、対策も含めて聞いてみた。【根本太一】
●回り回ってじわじわと
「ひとことで言えば、長い間の環境破壊や汚染がもたらす現代の病です」。周東さんはそう説明する。「かつては水俣(みなまた)病やイタイイタイ病、大気汚染が原因とされる気管支ぜんそくなどがそれでしたが、患者さんと向き合ううちに、公害病のような症状はなくても、生活環境に起因する体調不良や病気があるのでは、と気付いたんです」
周東さんが埼玉県内で開業する四つのクリニックには「子供のころから健康なのに、なぜ赤ちゃんができないの」「酒もたばこもやらない私がどうして、がんになるのか」といった訴えが寄せられる。これを「さまざまな化学物質が回り回って人体に蓄積し、じわじわとむしばんでいる表れ」と考える周東さんが言った。
「多摩川のコイに異状があるのを知っていますか?」
多摩川や神田川の雄のコイの約1割に、精巣障害があるというのだ。東京都環境科学研究所の99〜00年の調査で分かったもので、本来は雌だけが持つビテロジェニンというたんぱく質が精子の形成を阻害する。下水処理場の放流口に近い場所ほど多く、精巣にがん組織のあるコイもいたという。
「ダイオキシンなど有害物質のせいです」と周東さん。名古屋市の96年の調査では、同市内で下水を浄化したはずの放流水から、プラスチック酸化防止剤なども検出。精巣との結びつきは不明だが「下痢はしないけれど、飲む気になれない水が川に流されているわけです」
周東さんが懸念するのは、これらの有害物質が近海魚に残留し、それを食べた人間が摂取してしまうことだ。「ダイオキシンも、ごみ焼却場の排煙からではなく、約95%は食べ物から摂取されることが分かっている。その約8割は魚介類ですよ」。農薬などが土壌に染み込み、海に達した結果だが、実際、人間の精子は10〜20年前に比べて減ったという報告もある。
●魚や肉の脂肪に蓄積
水銀も見逃せない。インドマグロやキンメダイなどに含まれていることは国も確認しているが、周東さんは若い母親や子供の摂取量が増えていると警告する。「体内に蓄積された水銀は、代謝によって髪の毛に現れます。安全基準は平均1・555ppmなのに、母体から取り込んだのか3ppmが検出される子もいる。一度、毛髪検査を受けることをお勧めしますよ」
海外では、水銀の胎児の脳への影響が報告されている。症状がすぐに出なくても、長い年月でみると恐ろしい。周東さんは「魚も動物の肉でも脂肪に蓄積されるものが多い」と説明した。農薬を使った草を牛が食べれば、牛の脂肪にたまり、肉や乳、バターなどを通じて人間が摂取することになる。なるほど内臓脂肪は大敵ということか。
「有害物質は細胞を攻撃するのでDNAに異常をきたし、がんになる可能性が大きい」。食品添加物はもちろん、魚の干物にも気を付けた方がいいという。「一夜干しなら問題ないが、普通の干物はたんぱく質が劣化していることもある。焼いても毒素は残り、これがアレルギーを起こしてアトピー性皮膚炎の原因にもなりかねない」
杉林の近くで暮らす人より都市生活者に花粉症が多いのも、排ガスや二酸化炭素をより多く摂取した末のアレルギー疾患。「汚染された大気のイオンはプラスイオンになって心身に悪影響を及ぼす。さらにシックハウス症候群など、生活環境は常に病気と紙一重と言っていい」
だが、いまさら魚も肉も食べないというわけにもいかない。「まずは飽食、大食をやめること。でないと細胞が、まるでさびたようになりますよ。体さび病です」。そう話す周東さんが勧めるのが、なんとキムチだ。「ただ辛いだけじゃだめです。確かにトウガラシは内臓脂肪を燃やして有害物質が蓄積しにくくなりますが、アクが多く細胞を刺激します。それよりよく漬け込み、野菜が発酵したものがいい」。みそや漬物などの発酵食品はダイオキシンを分解し、酵素も取り入れて老化を防ぐ。しかも、食物繊維にはダイオキシンの排出作用があることも分かっている。
「低脂肪で作ったヨーグルトの乳酸菌もアレルギー疾患を改善します。そして米ぬか。抗がん作用があるフィチン酸という物質に、体内の水銀をはき出す効果があるし、ニンニクやネギが含むセニンも有害物質の力を弱めてくれます」
さらに、お薦めの健康法が酢足浴(すあしよく)だ。竹酢液(ちくさくえき)と玄米酢、自然塩を混ぜた湯で足を30分ほど温めた後、マッサージしてあかを取る。足に蓄積した毒素が排せつされるという。最後に周東さんが言った。「現在の生活環境を変えられない以上、食材に気遣い、手作りの和食、粗食といった日本人本来の食事に戻すこと。『知的予防』『知的健康改革』が求められています」
●気づかぬままに
生活環境病が怖いのは、初めは症状と原因の直接関係に気付かないことだ。普通に暮らしていたのに、汚染された魚を食べ続けて起きた水俣病、米軍がベトナム戦争でまいた枯れ葉剤、イラクに落とした劣化ウラン弾による放射能の影響も、後になって初めて悲惨な結果が表れた。
ダイオキシンも排出規制の法律が成立する99年までは、ほとんど垂れ流し状態だった。国が先月、発がん性を認めて使用を禁じた「アカネ色素」は、ハムや菓子、めん類、清涼飲料水などの着色料に広く使われており、私たちの体に長年蓄積されていたことになる。
「豊かさのツケ」なのか。生活環境病を「人為的なもの」ととらえるなら、HIV(エイズウイルス)のまん延もしかり。東京大学医科学研究所・先端医療研究センターの岩本愛吉(いわもとあいきち)教授(54)は最近の講演で、「アフリカの片隅でサルから感染したHIVは、アフリカ横断道路の完成と同時に地球規模で広がり始めた」と話した。グローバル化の「副産物」ということなのだろう。15〜16世紀の大航海時代には、天然痘が欧州から新大陸に運ばれ、逆に梅毒が持ち帰られている。
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■人物略歴
◇周東寛(しゅうとう・ひろし)
氏医療法人「健身会」理事長。昭和大学藤が丘病院兼任講師。西洋医学に東洋医学を取り入れた予防医学を重視する。「生活環境病」(史輝出版)、「アトピー最新治療Q&A」(同)など著書多数。
毎日新聞
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